はじめに
第1部 評価分析
第2部 ビジネスコミュニケーション
第3部 仕事の進め方
第4部 人材育成とチームデベロップ
第5部 業績向上
付録
逆引き目次

1日のプランニング

今日、自分はどういう手順で、何をするのかを、その日の仕事を始める前に決定しておく、これが一日のプランニングです。
プランニングとは、言ってみればイメージトレーニングです。以前、今は亡きF1ドライバー、アイルトン・セナのチームスタッフに聞いた話ですが、セナはサーキットに出る前に必ず、瞑想してコースをどう走るかをイメージするそうです。目を開けるまでの時間が、約1分。そしてコースへ出ていき、戻ってくるまでの周回時間が、イメージトレーニングの時間とピッタリ、一致するという。
我々も、天才と言われたセナほどではないにしろ、一日のスタートの5分くらいの時間を使ってプランニングをし、一日の仕事の有り様をおおまかにでもイメージすることができれば、その日の仕事をスムーズに行うことができるのです。
一日の仕事がイメージできていれば、“突発の仕事”が生じても、うまく対処できるはずです。その日の予定に、どの程度の余裕があり、空き時間があるのか、さらに予定していた仕事の優先順位、投下時間もわかっている。あとは突発の仕事の優先順位、投下時間を把握し、予定していた仕事と比較、選択するだけです。突発の仕事によるダメージを軽減するのは、生産性向上の重要なテーマであるのは、もはや言うまでもないでしょう。
プランニングのキーポイントをひとつ言えば、取引先や仕事のパートナーなどと連絡を取り合う、コンタクト業務を、最初の仕事にすることです。仕事相手も、自分の都合によって外出したり、会議をしたりと、いつも机に向かっているわけではない。朝のうちにコンタクトしておかないと、一日中、相手を追いかけるという事態にもなりかねない。しかも、相手との調整、意志決定が遅れることで、一日の仕事すべてが遅延してしまうこともある。逆にコンタクトができれば、一日分の時間予算をすべて、有効に使えることになるのです。

スケジューリングの30%法則

スケジューリングのコツは、一日のうち、具体的にどの仕事をするのか、予定を入れるのは、30%の時間を限度にすることです。
世の中には忙しい人もいて、なかには「1週間先まで予定が一杯で、余裕がない」という人までいます。ところが、その人が1週間、予定通り仕事ができるかというと、まず不可能です。皆さんが毎日、何とかこなしている仕事のうち、平均で60%がコミュニケーション業務だということを考えれば、当然のことです。仕事の大半が“他人と共同でやる仕事”であり、自分ではコントロールできない余地のある仕事なのですから。これに加えて、“突発的に生じる仕事”もあることを考えれば、スケジュール帳に目一杯、仕事を書き込むのは、無駄な行為でしかない。
それどころか、スケジュールが混乱した結果、パレートの法則でいう、2割の仕事も満足にできないことも考えられます。こうなっては、無駄というより、むしろ有害でしかない。30%のみのスケジューリングとは、突発の仕事や、他の仕事の遅延によって、この2割の仕事の遂行が阻害されるのを防ぐ方策なのです。
逆にいえば、いくら突発の仕事が生じようと、一日のうち70%以上も時間が取られることはない、ということです。だからこそ、確実に自分でコントロールできる時間に見合う分だけ、重要な2割の仕事の予定をたてておけば、優先順位の混乱を起すこともなく、生産性の向上も望めることになります。
ただし、“仕事に時間を張り付ける”という、タイムマネジメントの基本を忘れないで下さい。残念ながら、「10時からの1時間に、どの仕事をしようか」という考え方をする人も多いのです。まず優先順位によって仕事を選択し、次いでその仕事をいつやるのかを決定する。この手順を間違えては、優先順位の混乱を生じることにもなり、それでは生産性の向上も望めません。

性格は変わらないけど行動は変えられる

日本の武道には、型があります。「形から入って心に至る。」が型の持っている本質だと思います。
企業でのトレーニングやコンサルティングの際、「性格だからしょうがない」とか「性格を変えなければいけないでしょうか?」というような意見や、質問を耳にします。
私はいつも、「性格まで考えると重いでしょう。もっと気軽に考えて、性格ではなく行動を変えてみたら」とお話しています。ただ、行動を変えるといっても、漠然としていて、つかみどころがありませんから、まずは基本となる三つの行動だけをおすすめしています。
その三つとは、すでにお話してあります「一日のプランニング」「仕事の棚卸」「自分へのアポイント」の三つです。
いわば、この三つは、「お仕事道」の「型」といえるものです。それも基本中の基本の型です。
仕事の達人になるのも、武道の達人になるのも基本は同じだと思います。毎日毎日、基本(「型」)を繰り返し、意識しなくともできるようになる(習慣として身につく)。その時、達人への第一歩が記されるのだと思います。
タイムマネジメントに関する言葉でも「継続は力」というのがありますが、継続すべきは、基本(「型」)だと思います。
武道と違い、ビジネスの世界では、今まで「型」に該当するものがなかったように思います。だから、行動を変えようにも、変え方がわからなかったともいえます。
まずは、「一日のプランニング」「仕事の棚卸」「自分へのアポイント」の基本を継続し、行動を変えるための「型」を身に付けてみましょう。達人へのスタートです。

他人を変えるより、自分を変えるのが簡単

仕事が上手くいかなくなると、普通の人はその原因を探ります。この作業をしない人は、多分ビジネスゲームから退場させられてしまう人です。
しかし、その退場させられてしまう人より私流にいわせていただければ、「タチ」の悪いのが、上手くいかない原因を、「他人」に求める人です。
「仕事が取れなかったには、上司の決断が遅かったせい」「取引先の対応が遅いので、目標達成できなかった」「数字が上がらないのは不況のせい」と、上手くいかない原因を他人に求めると、無限にその理由は出てくるものです。
確かに、「他人のせい」の部分も多々あると思いますが、このスタイルの「タチ」の悪いところは、改善なり、向上の余地なり発想がほとんど(まるっきり)ないということです。失敗なり、上手くいかない原因を他人に求める場合、自分がどうするかという、仕事を進める上で、一番大事なことが、二の次、三の次になるだけでなく、不必要に相手・他人を責めることになったりで百害あって一利なしです。これならまだ、能天気に、原因も考えずに只々、同じことを繰り返す方が、救われる気がします。
タイムマネジメントの原点は、「自責」です。「他責」ではありません。何か問題があったら、まず自分のどこに原因があり、それが修正可能か考えることです。
他人のことは、基本的には、コントロールできないことですが、自分のことは、自分でコントロールできる。極論すれば、ビジネスにおいて、唯一コントロールできるのは、自分のことだけだと思います。
コントロールできない他人のせいにするより、コントロールできる自分のせいを考えた時、光明が見えてくるはずです。

変革、再生の出発点はセルフマネジメント

セルフマネジメントという言葉があります。この言葉もタイムマネジメントと同様で曖昧な言葉として使われているように思います。社内の遅刻常習者に「お前はセルフマネジメントができていない!」なんて説教している上司が思い浮かびます。自分を律する、何か修行僧にでもならないと実現できそうもない、堅苦しいイメージがついてまわっています。
私は、セルフマネジメントは、「タイムマネジメント」に「やる気マネジメント」を加えたものと理解しています。この副読本では、タイムマネジメントの何たるかを、説明してきましたが、ご紹介した技術を取り入れ、仕事を変えることができるのは、一人一人の皆さんの気持(意志)です。いくら使える技術があっても、それを使わなければ、一銭の価値もありません。この気持のコントロールが加味されると、タイムマネジメントの技術は大きく役立つものとして注目を集めることになると思っています。本書の中でも、少々「やる気」に関することは、触れてきました。タイムマネジメントの技術を活かすための前提条件として、ご紹介したつもりです。
社長がセルフマネジメントを身に付けると、その会社は間違いなく変わります。支店長がセルフマネジメントを身に付けると、その支店は成績が向上します。課長がセルフマネジメントを身に付けると、その課は、一人一人が元気になります。
私がタイム・セルフマネジメントを学んだイギリスでは、経営者スクールとか管理者養成スクールでの必須コースに、必ずセルフマネジメントの講座があったことを記憶しています。企業変革または再生のポイントは、ピラミッドの頂点にいる方々のセルフマネジメントからが私の持論です。

予定と突発

仕事には、“事前にわかる仕事”と“突発的に生じる仕事”とがあります。皆さんも、事前にわかる仕事については、計画をたてたり、準備をしたりと、生産性を上げるための工夫をしているでしょう。しかし、そうした計画や準備を台なしにするのが、突然目の前に割り込んでくる、突発の仕事です。つまり、事前にわかる仕事で成果を挙げるには、突発の仕事にどう対処し、ダメージをいかに軽減させるかが、重要なことなのです。
ところで皆さんは、突発の仕事を減らす努力をしていますか?
おそらく、「突発の仕事なんて、他人が持ち込んでくる仕事なんだから、自分が何か工夫して減らせるものじゃない」と、諦めているのではないですか。ところが、その手法はあるのです。
突発の仕事のほとんどは、他人がもたらすものですが、その他人には、社内にいる他人と、社外の他人との、2つの種類があります。まず、金庫内の人間が持ち込む突発の仕事は、金庫内ルールを作ることで、かなり軽減できます。例えば、上司が「おい、ちょっと」と部下を突然呼んで、打ち合わせを始めたりしない、事前に時間を取り決めておくとか、会議を開く前には事前準備ができるように十分な時間的余裕を置くといったことを、ルール化するのです。
金庫外から持ち込まれる突発の仕事は、こちらが先手を打つことで軽減できます。例えば、一緒に仕事を進めている相手など、連絡がありそうな相手には、先方からの連絡を待たずに、こちらから電話をする習慣を身に付ければ、それは事前にわかる仕事になり、その分、突発の仕事は減ることになるはずです。しかも、その連絡を朝、一番にやると決めておけば、連絡の結果、やらなくてはいけない仕事ができても、その日の仕事のスケジュールに組み込むことができ、やはり事前にわかる仕事にすることができるのです。

自分一人でやる仕事と、他人と共同でやる仕事

“自分一人でやる仕事”と“他人と共同でやる仕事”は、それぞれ別個に存在する仕事ではありません。むしろ、密接な相関関係にある仕事です。 例えば、会議という、他人と共同でやる仕事で成果を挙げるには、アイディアをまとめる、自分の意見を明確にするなど、事前の準備という、自分一人でやる仕事ができているかどうかが、重要なポイントとなります。さらに、会議で目標確認や共通認識が得られるかどうかは、その後のプランニングや企画立案など、自分一人でやる仕事に、大きく影響します。また、企画書の作成という、自分一人でやる仕事には、得意先や同僚からの情報収集という、他人と共同でやる仕事の成果が、大きく関わってきます。
さらにこの2つの仕事は、スポーツで例えるなら、練習と本番の試合に見立てることもできます。練習でうまくプレーできなければ、本番の試合で高いパフォーマンスを見せることはできない。何故なら、試合では味方とだけプレーするのではなく、敵が自分のプレーを邪魔する中で、戦わなくてはならないからです。
同様に、企画書の作成や関連資料の収集という、自分一人やる仕事がうまくできなければ、本番の取引先でのプレゼンテーションもうまくいくはずがない。本番のプレゼンテーションとは、相手からの質問や疑問、意見が次々に飛び出してくる、いわば突発の仕事の連続です。その度に、すぐに回答しなければならないAXの仕事なのか、後で回答してもいいBXの仕事なのか、あるいは他人に回答させた方がいいCXの仕事なのか、瞬時に、適確に判断しなければならない。それができるかどうかは、プレゼンテーションの準備ができているかどうかで、決まるのです。
つまり、自分一人でやる仕事ができているかどうかで、その人の仕事全体の成果が決まってしまうとも言えるのです。

フラット型組織は力を出すのか?

多くのビジネス書が説く、「これからの日本企業は、従来のピラミッド型組織ではダメだ。フラット型組織に改革すべき」との主張に、このマニュアルでは異義を唱えます。
我々の仕事には、業務処理と情報処理の二つがあります。ピラミッド型組織というのは、実は業務処理を効率良く行なうためのものなのです。1人では処理できないために2人でやる、2人ではできないために4人でやる。人数を増やしながら、役割分担を決め、さらに指示・監督するものと、指示の下に業務処理を行なう者とを置く。こうしてできあがったのが、ピラミッド型組織なのです。
実は、業務処理を効率良く行うためのピラミッド型組織を、情報処理のために利用したことが、日本企業の過ちだったのです。トップダウンの戦略情報は、社員のやる気に直結する情報です。これをピラミッド型組織を使って伝達すると、経営陣から一般の社員に至るまで、役員や本部長、部長、課長と、何段階ものクッションを経ることになります。その過程で、情報は変質してしまうのです。
情報が支店長に伝えられた段階で、元の情報に支店長の主観が加えられ、さらに次の段階で課長の主観が加えられる。その分、理事長や経営陣の主観が排除されていく。これでは、経営トップの思いや考えが、一般職員には伝わらず、その結果、彼等のやる気をも削ぐことになるのです。逆に戦術情報がトップに伝わらなければ、理事長が現場の社員の仕事がわかっていないという組織になってしまう。昨今の食品業界で、商品の品質表示の偽造事件が続発しています。事件を起こした企業の社長が決まって口にするのが、「現場でのそうした行為を知らなかった」という台詞です。
こうした組織にならないためにやるべきこととは、ピラミッド型組織を廃するのではなく、トップダウンの情報が、経営陣から一般社員にダイレクトに伝達されるシステムを構築すること。つまり情報伝達のシステムをフラット化することなのです。

タイムマネジメントが大事なわけ

仕事は、情報処理と業務処理の2つの作業によって成り立っています。例えば企画書作りという仕事なら、上司やお客様との打ち合わせで内容や期限が決められ、さらにお客さんや同僚からも情報を収集し、その情報を基に文書を作成するという、業務処理を経て、企画書作りという仕事が完遂します。
ところで、この2つの作業に必要なスキルは何でしょう。我々は仕事をするとき、コミュニケーションと仕事の進め方、専門知識の、3つのスキルをを使っていると説明しました。そのうち情報処理には、聞く、話す、読む、書くのコミュニケーション・スキルが必要なのは当然です。さらに効果的な委任の手法や会議の開き方といった、仕事の進め方のスキルも必要です。一方、業務処理には、営業マンとしての専門知識、支店長や課長といった役職に応じた専門知識が必要です。さらに、業務処理を効果的に行うためには、“自分へのアポイント”や“投下時間”の把握など、やはり仕事の進め方のスキルが必要なのです。
つまり、仕事の進め方のスキルがなければ、情報処理も業務処理も、効率良く行うことが不可能なのです。このスキルがないと、会議で自分の意見を述べるのは上手だが、メンバーとの共通認識を持てない、口先だけのビジネスマン、知識だけはあるが、実際の仕事に生かせない、学者センセイタイプのビジネスマンになってしまいます。
また、情報処理にも、業務処理にも必要な、このスキルは、2つの作業を結び付けて、ひとつの仕事を遂行するための、キーとなるスキルなのです。仕事が情報処理と業務処理から成り立っており、いずれが欠けても、仕事の生産性どころか、仕事そのものができない。ですから、2つの作業を繋ぐ「仕事の進め方のスキル」が、重要なのです。そして、仕事の進め方のスキルとは、言い換えればタイムマネジメントのスキルなのです。

「忙しすぎる」と「こだわりすぎる」仕事のすすめ方

タイプAの鈴木支店長は「忙しすぎて、いくら時間があっても足りない」というのが口癖。なにしろ、自分の仕事だけでなく、「説明するのが面倒だから」と社員に任せるべき仕事も引き受け、社員の仕事にも手を出す。そのため報告書や企画書を机に山と積みながら、営業マンとしても飛び歩いています。
頑張り屋の彼は、残業をしてでも、たまった書類仕事をやり遂げます。しかし、十分に考える間もなく仕上げた企画書で相手を説得させられるのか、疑問です。つまり、どれだけ多くの仕事をやり遂げられるかが彼の仕事の指標であり、ひとつ一つの仕事のレベルを高める努力は疎かになりがちです。だからタイプAは、量偏重型と言えます。
一方、タイプBは質偏重型です。山田君は、どんな仕事にも完璧を求め、電話の連絡メモや日報までワープロ打ちです。企画書や報告書をワープロで打つのは良いとして、電話メモも同じレベル(ワープロ打ち)で仕上げる必要はないはずです。電話メモにも完璧を目指していては、ひとつ一つの仕事に時間がかかりすぎ、そのしわ寄せのため他の仕事に手が回りかねることにもなります。
これほど極端でなくても、みなさんも必ずいずれかのタイプに属しているのです。ただ単純には割り切れず、タイプAの要素もあるが、より多くタイプBの要素を持つので、大まかに分ければタイプBに属すというのがほとんどです。大切なのは、AとBの要素をバランスよく併せ持つことです。また、誰でも状況や仕事のよって、仕事のスタイルが変わることがあります。タイプBの人でも、年度末の切羽詰まったときにはタイプAのようなスタイルになるのです。残念なことに、自ら考えて主体的にスタイルを選択している人は少ない。無意識のうちに仕事や状況に動かされている。主体的にスタイルを使い分けるのと、動かされているのとでは、自ずと仕事の効率に差が出てしまうのに。

生産性向上の3つのキーワード

タイプA(量偏重型)の要素とタイプB(質偏重型)の要素をバランス良くあわせ持つことがと、支店長しよう研修で説明したことを思い出して下さい。
何故、バランスが大切なのか? 現実のビジネスの現場では、常に時間という制約の中で仕事をしなければならないからです。時間の制約がなければ、量も質も、好き放題に追求することができるはず。時間が限られているからこそ、読者の皆さんも「量を求めるべきか、質を求めるべきか」と、ハムレット的悩みを抱えてしまうのです。
ここまで言えば、3つのキーワードとは何か、皆さんにもお分かりのはず。そう、キーワードは”質”と”量”と”と“時間”です。ちなみに支店長しよう会では、ある仕事を始めてから終えるまでに要した時間を”投下時間”と呼び、質と量とともに、仕事を効率良く達成するための指標としてました。
どんな仕事、どんな業種であっても、質と量と投下時間のバランスによって、生産性が左右されるのです。ただ、間違えないでほしいのは、3つの要素がイーブンであるのが、良いバランスだというのではない、ということ。昨今、「業務のスピード化」を唱える企業が多いのですが、これは質、量を変えずに投下時間を短くする(投下時間に比重を置くバランス)ことで、生産性を向上させるのが目的です。典型的なのが、あのマクドナルドの出店計画。IT化、システム化を図り、従来は2〜3年要していたのを、3〜4ヶ月で出店できるようになった。一方、量を拡大して生産性向上を果たし業績を拡大している代表例が、ダイソーをはじめとする百円ショップですし、質を高めて業績を伸ばしている代表例が有機野菜の生産・販売です。
ただ職員に向かって「頑張って働け」と言っているだけでは、生産性向上など得られません。
大切なのは、質と量と投下時間のバランスの最適化を図ること―これが生産性向上の秘けつだと覚えておいて下さい。

無駄探しは時間の無駄?!

「仕事の無駄を排除し、仕事の効率化を図ろう!」
時短、リストラが叫ばれる御時世。こんな標語を掲げて、企業変革、業務改善運動に取り組む企業は多い。社内のすべての業務を列挙し、その中から無駄なものを探し出し、業務フローから取り除こうというものですが、なかには優先順位を明確にする手法のひとつとして考えている企業もあります。しかし、こうした取り組みこそ、無駄なこと。事実、無駄を排除しても生産性の向上という成果が出ていないと、悩む企業が多いのです。
何故、無駄か?
答えは簡単。重要な2割の仕事を見つけることと、正反対の取り組みだから。「無駄の排除」=「優先順位の決定」ではないのです。話を簡略化して言えば、10項目の仕事のうち、無駄な2つの仕事を排除するのが、無駄探し。だが、それで重要な2つの仕事がわかるわけではない。無駄を排除して、せっかく時間的余裕を作っても、その時間に優先順位で7番目、8番目の仕事をしていては、無駄を重ねることにもなりかねない。
なにより、重要な2割に傾注すべしとする「2割8割の法則」からすれば、無駄を探すために時間を費やすこと自体、生産性を低下させる可能性の大きな仕事をしていることになるのは、自明のことでしょう。
さらに言えば、無駄な仕事を探すというのは、あまりに後ろ向き、ネガティブな作業です。「お前が今までやっていたこの仕事は無駄だから、もうやらなくてよい」と言われては、社員のモチベーションも低下するし、言う方の士気も上がらない。2割の重要な仕事を探し、それにトライする方が、よほどモチベーションも高くなるというものです。
無駄を探すのは、優先順位を明確にすることには何の寄与もしないし、悪くすれば逆効果にもなり得るのです。

大事な仕事を見つける4つのキーワード

皆さんは、大事な2割の仕事の見つけ方を知っていますか?
世にある多くのセルフマネジメントの指南書は、「仕事を重要度と緊急度で分類せよ」と説きます。しかし、「何が重要か」というのは、主観的にしか判断できないことです。これでは、選択する仕事も人それぞれです。支店長しよう研修では、重要度と緊急度に替わる、より客観性の高い4つのキーワードを使って、大事な2割の仕事を見つける方法を提案しました。
重要度に替わる第1のキーワードは”自分でやる(自分にしかできない)仕事”、第2は”他人に任せてもいい仕事”です。次いで、緊急度に替わる第3のキーワードが”今やる仕事”、第4が”後でもいい仕事”です。以上、4つのキーワードを使って、皆さんが今抱えている仕事をすべて、次のA、B、Cの3つにグループ分けして下さい。Aが”今、自分でやる仕事”、Bが”後で自分でやる仕事”、Cが”他人に任せてもいい仕事”です。
それでは、大事な2割の仕事はどれでしょう?
多くのビジネス指南書の説く「重要度と緊急度」からすれば、Aの仕事だと考えてしまいませんか。しかしAの仕事は、仕事の期限が迫っているゆえに、投下時間が少なくなってしまい、そのため仕事の量か質、あるいは両方が犠牲になってしまいがちな仕事です。つまり、生産性を落とす仕事となる可能性が大きいのです。
一方、Bの仕事はどうでしょう。期限が迫っていない仕事であり、時間的余裕があるゆえに、質も量も追求できる仕事、つまり生産性向上に寄与する可能性の大きな仕事と言えます。皆さんが、自分自身の生産性向上に取り組む時には、このBの仕事をどれだけ多く見つけられるか、さらにコンスタントに行うことができるかどうかが、大切になるのです。

優先順位の混乱は他人のせい?

“突発の仕事”は、常に“他人”によってもたらされます。お客さんからの電話、本部から電話、職員からの「支店長、この件なんですが」という相談、金庫内の他の部署からの問い合わせ……。実に様々な人が、皆さんの仕事の手を止めようとします。「これじゃ、仕事が遅れるのも仕方ない、俺のせいじゃない」というのが、偽らざる気持ちでしょう。しかし、本当に悪いのは他人なのでしょうか?
デスクにいる時にお得意先から電話がかかってきたら、皆さんはどう対応しますか。どんな仕事をしていても、手をとめて電話に出ますか。それとも、その時の仕事によっては「後で折り返し電話をするから用件を聞いておいて」という対応をしますか。前者の人は、突発の仕事のため毎日、てんてこ舞いでしょう。お客様や本部に頼まれた仕事は何であろうと最優先だし、社員からの相談も最優先、他の部署からの問い合わせも人任せにはしない。
これでは、まるで他人に仕事をさせられているようなものです。混乱の本当の原因は、突然降りかかってきた仕事(突発の仕事)をきちんと把握し、今手掛けている仕事(事前にわかる仕事)とどちらが優先度が高いのか、あるいは部下などに任せられる仕事かどうかを判断せずに、ただ「自分を名指しだから仕方がない」と引き受けてしまう、”自分”に原因があるとは言えないでしょうか。
では、「仕方がない」と引き受けてしまうのは何故でしょう。それは、事前に分かっている仕事のことを、実は分かっていないからなのです。その仕事の内容(量と質)、投下時間を把握できていないから、優先度も把握できない。だから突発の仕事が生じると、自分でやるべきか、他人でもいいのか、今やるのか、後でやるのか、その決定を自ら放棄してしまうのです。他人に依存し、自主、自立を失えば、仕事をコントロールするすべを失ってしまうというのに。

生産性を左右する6つの仕事

優先順位を決める手法として、”今自分がやる仕事”をAとし、”後で自分がやる仕事”をB、”他人でもいい仕事”をCとするグループ分けを紹介しましたが、しかしこれは”事前にわかる仕事”だけを分けたものです。仕事には”突発の仕事”もあります。
そこで突発の仕事をXとし、同じようにグループ分けして下さい。つまり、AXを”突発の仕事で、今自分がやる仕事”、BXを”突発の仕事で、後で自分がやる仕事”、CXを”突発の仕事で、他人でもいい仕事”とします。ところで、読者の中には、仕事を6つに分けることに何の意味があるのかと、いぶかる人もいるかも知れません。
 突発の仕事には、実に怪し気な魔力があります。お得意先からの電話、本部の頼み事というだけで、「これはすぐに処理しなきゃいけない仕事だぞ」と思い込んでしまう人が多いのです。つまり、突発の仕事をすべて、今自分がやる仕事だと思ってしまう。その時、どういう事態が生じるか。
あなたがAの仕事をしていたなら、そのまま仕事を続けるでしょう。またCの仕事をしていたなら、その仕事を誰かに任せてしまえばいい。いずれにしても、あなたの仕事にダメージはありません。しかしBの仕事をしていたなら、その仕事は後回しにされてしまいます。ところが、このBの仕事こそ生産性向上のカギとなる仕事です。つまり、突発の仕事に振り回されている限り、生産性の向上など期待できない。この落とし穴に陥らないために、突発の仕事にも3つの仕事があることを、知っておかなければならないのです。
突発の仕事がBXなら、慌てて対処することはないし、CXの仕事なら、ただちに誰か他の人に委任すればいい。あなたがどちらの仕事を優先させるべきか悩むのは、AXの仕事が生じた時だけ。それを知っておくだけでも、大切なBの仕事を意味なく犠牲にしてしまう事態を、かなりの程度、回避できるようになるはずです。

量をとるか、質をとるか

成長から成熟へ――これが昨今、日本の経済、社会を語る時のキーワードです。「経済成長の時代は終わった、これからは成熟した経済の時代だ」「成長市場から成熟市場への転換」などなど。私もこうした時代観、経済分析には賛成ですが、それでは成長から成熟への転換が、ビジネスの現場で皆さんの仕事にどんな影響を与えているのでしょうか。
成長市場とは、飽くなき”量”の追求を良しとします。生産量の拡大を追い求め、そのため長時間労働、同じ時間でより多くの物を生産するために、生産効率の向上が要求されました。一方、成熟市場でのキーワードは”質”の追求です。商品にどんな付加価値を与えるのか、他社の商品とどう差別化するのか、商品の売り方にどんな工夫を凝らすのかが、追求されているのです。
仕事には、量と質の2つの要素があります。成長市場の時代には仕事の量の要素が重視されたのが、成熟市場の時代には、質の要素がより重視されるようになったと言えます。しかし量が客観的に把握できるのに対して、質は具体的に表現しにくいうえ、その是か非かは、個人が主観的にしか判断できないものです。質を求めるというのは、ビジネスの現場にいるひとり一人が個性を発揮することだと、言い換えることもできるでしょう。
多くの企業が「個性ある社員を求める」と言い始めたのも、成長から成熟への転換とは無縁ではない。だというのに、現実にはそうした企業で個性的な社員が活躍する姿にはお目にかかれません。何故かと言えば、企業も組織である以上、同意とか、調整、調和が存在の基盤だからです。個性という仕事の主観的な側面より、客観的な側面に因って立つ方が、合意は達成しやすい。だからこそ今の時代、仕事の主観的な側面を、個人だけでなく、チームや組織でマネジメントし、同意、調和、調整に結び付けられる手法が求められているのです。

質の選択基準をどうするのか

成熟市場では、仕事の”質”の追求が重視される――そう説いていると、「具体的な目標がないのに、どうやって追求したらいいんだ」という皆さんの声が聞こえてくるようです。そこで、質を追求する際のひとつの目安となり得るものを、紹介しましょう。それは、「すでになされた仕事」です。
「質を追求する」とは堅苦しい言葉ですが、言い換えれば「いかに上手く仕事をするか」ということなのです。上手く仕事をするためには、経験するのが一番です。同じ仕事でも初めての時より、2度目の時の方が上手くできるし、3度目の方がより上手くできるはずです。ということは、初めての時に比べ、2度目の時の方が、仕事の質を高めることができたということになるのです。
例えば、新商品のプレゼン資料作成という仕事で、初めての時には商品の説明だけで手一杯だったのが、2度目には他行商品との比較分析にまで言及できたとすれば、仕事の質を高めることができたと言えます。3度目には、プレゼンの内容に変わりがないが、資料作成に要した時間を短縮できたとすれば、やはり質を高めたことになります。
それでは、初めての仕事をする場合には、何を判断基準としたらいいのか。それは、他人の仕事です。最近の事例では、各発砲酒メーカーの市場参入の動きがその良い例です。各社とも、発砲酒はまったくはじめての商品でした。その中で最初に商品化し、売り出したメーカーの商品が、後発メーカーにとって初めての仕事である、自社の発砲酒の質の判断基準となり、それを上回るものをと、各社が競争によって質を高めてきたわけです。先発メーカーにとっても、既存の類似商品であるビールが、新たな仕事であった発砲酒づくりの、質の基準であったのです。
すでになされた仕事より上手くやる――これを常に心掛けて仕事に取り組むことで、必然的に仕事の質の追求につながるのです。
第1部 評価分析第2部 ビジネスコミュニケーション第3部 仕事の進め方第4部 人材育成とチームデベロップ第5部 業績向上付録

主催:日本タイムマネジメント協会 情報提供:仕事の科学研究会