「重要性と緊急性」
今迄のところで、なぜ「優先順位」が、タイムマネジメントや生産性向上のキーワードなのかは、十分おかわりいただけたことと思う。
では、実際のところ、優先順位はどうやってつけたらいいのだろうか。
一言で「優先順位」と言っても、その判断基準は様々である。書店に並ぶ100冊を超えるタイムマネジメントの本の多くは、優先順位の重要性や、パレートの法則について述べた後、「優先順位のマトリックス」と称して、その判断基準に「重要性」と「緊急性」を挙げている。しかし、これらは、本当に有効な判断基準なのであろうか。実際の業務に照らして考察してみよう。
一般の本の中で語られている「優先順位」のつけ方は、おおよそ次の通りである。
まず、皆さんの今抱えている仕事を、全部紙に書き出してみよう。次に、それらの仕事を、@重要性・緊急性共に高いものをA、A重要性は低いが緊急性が高いものをB、B重要性は高いが緊急性は低いものをC、C重要性・緊急性共に低いものをDという四つの基準にそって分類してみよう。当然、優先順位は、Aが一番高く、Bから順に低くなっていくのだが、優先順位をつけたら次は、優先順位の高いAの仕事から着手し、最後にDの仕事をするようにすれば、パレートの法則によって、仕事の生産性は目に見えて向上する…といったところである。
この考え方は、一見、理にかなったものの様に見える。皆さんも、この作業をしただけで、何だか頭のモヤモヤが晴れた様な気になったかもしれない。しかし、それも多分、長続きはしないだろう。なぜかと言えば、実際は途中で、上司から声がかかったり、お客様からクレームがはいったりといった突発業務が待ち受けているからである。こうたびたび突発業務が発生したのでは、折角振り分けた優先順位も、すぐに無意味なものとなってしまう。生産性とて、かえって、下がってしまうかもしれない。
では、どこに問題があるのだろうか。
まず言えることは、このマトリックスでは、不測の事態を想定していないということである。そもそも私達は、他人との関わりの中で仕事をしている。これは言い替えれば、当然、自分では把握しきれない事態が起きるということである。ということは、仕事をする際には、事前にはわからない仕事への対処も、心得ていなければならないということである。にもかかわらず、上記のマトリックスでは、事前にわかる仕事のみをリストアップしているところに問題があるわけである。
次に言えることは、この、「重要性」と「緊急性」という基準そのものに妥当性がないということである。ここでちょっと、先程の水路化現象の一項目を思い出していただきたい。私達の頭の中には、「重要な仕事よりも緊急の仕事」を優先させてしまう無意識の回路が存在するという事実。とすれば、私達は、「緊急性」によって、「重要性」の判断を誤り易いということが言える。だから、突発業務が発生すると、つい、そちらに目がいって、優先順位を誤ってしまうわけである。ということは、上記のマトリックスで言う、AとBの判断の中に、既に優先順位の落とし穴が潜んでいるということである。これでは仕事がうまくいくはずはない。
では、どうしたらよいのか。
そこで弊社では、優先順位の判断基準を、まず、イ.「自分か他人か」ロ.「今か後か」で分類する。そして更に、突然やってくる仕事を「X業務」として、上記のイとロの基準に従って、優先順位をつけることにしている。
つまり、今、自分がやる仕事がA、後で自分がやる仕事がB、他人でもいい仕事がC。更に、突然発生して、今自分がやる仕事がAX、後で自分がやる仕事がBX、他人でもいい仕事がCX…という、合計6つの優先順位を設定し、Aランク(A及びAX)の仕事から着手するのである。他人でもいい仕事は、即、他人に委任すればいいのであって、優先順位の判断に、「いつやるか」までは必要ない。
まずは、「急がば回れ」の精神を持つこと。いくら突発業務が起こっても、慌てず、騒がず、優先順位をはっきりと見極めてから仕事にかかる余裕を持つことこそが、生産性向上の鍵と言えよう。