■□■□ はじめに ■□■□ |
時代の流れに乗り、時代の要請に応えることのできるかもしれない。ひとつのビジネスサポートツール(機器)が1993年の秋に開発されました。今までのビジネスサポートツールとのいちばんの違いは、ひとりひとりの個人のレベルでの活用はもとより、企業、組織での活用も同時にできる点にあります。しかも、その優れものの一台は、ビジネスのあらゆるシーンにおいて、私たちをサポートしてくれる頼もしい一台でもあります。私がこの一台に持ったイメージは、学生時代に見た映画『スターウォーズ』に登場するロボット「R2−D2」そのものです。R2−D2は、情報量と情報分析能力を騎使し、主人公である「ルーク・スカイウォーカー」が遭遇する様々な危機的局面を幾度となく救う、優れもののロボットでした。 今、私の手元にある優れものの一台は、残念ながらロボットとは違い、自ら動くことはしませんが、その小型・軽量化により、いつでも、どこへでも私のお供としてついて来てくれます。また、映画で登場したロボットのように、私が口頭で指示を出しても、自動的に応えてはくれませんが、手書き入力や様々な機能の使いよさにより、操作性はパソコンをはるかにしのいでいますし、映画のロボットにも負けないくらいの情報検索機能を持っています。 そして、この原稿を書いている1994年9月の時点において、電子ツールという身分にもかかわらず「ザウルス」という名前を持ち、日本全国に仲間が40万台以上いるという超売れっ子でもあります。 この優れものの生みの親であるメーカーさんは、さらに仲間を増やし、100万台と目指しているとも聞きます。 この優れものの「ザウルス」君は、突然この世に生を受けたわけではありません。実は彼にはお兄さんがいます。彼よりも1年ほど早くこの世に生を受けた「アクションマネージャー(PV−F1)」君という兄です。この兄は「ザウルス」君ほど世間から注目されてはいませんが、時代の流れに乗り、時代の要請に応えるという点では、その中身において基本的には「ザウルス」君にも引けをとらない優れものです。私が先ほど紹介した「ザウルス」君へのイメージは、実はお兄さんの「アクションマネージャー」君に対して最初に持ったイメージです。「アクションマネージャー」君はパイオニアでした。前人未到の地に最初の一歩を踏み出した開拓者です。しかし残念なことに、功績をなかなか認めてもらえない、パイオニアにはつきものの非運の優れものでもありました。 1992年の夏、私はこの「ザウルス」君のお兄さんである「アクションマネージャー」君とともに、日本のビジネスフロンティアを探検してきました。北は北海道から南は沖縄まで、全国各地を冒険しました。「アクションマネージャー」君は行く先々で温かく迎えられましたが、その一方で、「何もそこまでやらなくても」とか「パイオニア精神は評価するけど、今の私には必要ないよ」という蔭の声も、同行した私の耳に届いていたのも事実です。 それから1年少々の時間が流れ、鉄腕アトムが10万馬力から100馬力にパワーアップしたように、「アクションマネージャー」君の探検は、パワーアップした弟の「ザウルス」君に引き継がれました。しかもこのわずか1年の間に、ビジネスフロンティアの地の様相も急激に変化していたのです。パワーアップにより探検能力が強力になったとはいえ、「何もそこまで」とか「今の私には必要ないよ」という声の多いフロンティアの地に足を踏み入れるのは至難の業と思われました。しかし、フロンティアの地には目に見えない変化が生じていたようで、恐る恐る足を踏み込んだ私たちに、いや、厳密にいうなら「ザウルス」君に、「待ってたゾ!」とか「今の私には、君が必要なんだ!」などという声があちこちからかかってきたのです。 「アクションマネージャー」君の探検の意図は間違いではなかったのですが、どうも出発の時間が若干早すぎたようです。しかし、そうであったとしてもパイオニアとしては大成功だったと私は思います。なぜなら、「ザウルス」君のコンセプトは「アクションマネージャー」君からそっくり引き継いだものだったからです。多少のパワーアップがあったとはいえ、同一コンセプトで探検に臨み今度は大成功を収めたのです。大切なことは、開拓地、ビジネスフロンティアである私たちのビジネス現場の環境に、大きな変化があると気づくことではないでしょうか。 時は折しも「マルチメディア元年」と呼ばれている1994年です。「アクションマネージャー」君の探検の開始から、まだわずか2年しか経っていません。しかし、この2年でビジネス現場は確実に変化しています。2年前のビジネスフロンティアは、従来どおりの企業、組織にあったように思います。それが今は、個人、チームといった、よりパーソナルな領域に移っているのです。「アクションマネージャー」君も「ザウルス」君も、日々使うのはパーソナルな個人やチームということになります。一台の「ザウルス」君は、ひとりの個人のサポートしかできません。しかし、「ザウルス」君の仲間が増えれば、チーム、企業、組織のサポートもできる点が、従来からある様々なビジネスサポートツールとのいちばんの相違点です。 私たちは今、『スターウォーズ』のR2−D2のような優れものの道具を手に入れることができる時代にいます。しかし、道具はあくまでも道具です。それを活かすも殺すも、すべてはその使い手に委ねられているのです。 本書は、マネジメントスペクトル理論(『セルフマネジメント・スキルBOOK』<TBSブリタニカ>参照)に基づいて、仕事の進め方、マネジメントの仕方を提案しながら、「ザウルス」君や、今後現れるであろう様々な携帯情報機器の持つポテンシャルを、100%使い手が引き出すことを目的に企画されたものです。携帯情報機器を題材にしていますが、まずは時代の流れに乗り、時代の要請に応える「人」のために書かれたものです。本書の内容は、単に携帯情報機器のみならず、様々な通信・情報機器の活用方法のヒントまで提供していると確信しています。 私たちは情報量が日々拡大し続ける時代の真っ最中にいます。通信・情報機器の発達、進化は、18世紀のワットの蒸気機関が産業革命をもたらしたように、私たちにコミュニケーション革命をもたらそうとしています。コミュニケーション革命は、コミュニケーションを行なう私たちひとりひとりの変革をもたらすことにつながり、私たちの仕事の進め方を大きく変える契機を提供しているようにも思います。仕事の進め方の変化は、私たちひとりひとりだけでなく、チームや企業、組織にも様々な影響を与えることになります。この変化、影響に対処するためにまず求められるのは、ひとりひとりの個人のパワーアップではないでしょうか。この事実に気づいた人たちが「ザウルス」君のオーナーであったり、各種の個人のパワーアップのための出版物の読者であったりしているのです。そして、このような人たちは確実に増えているのです。 情報量の増大は、コミュニケーション革命を、コミュニケーション革命はビジネス革命を、ビジネス革命は自己変革を、と連鎖して時代の流れを作り出しています。そして、携帯情報機器はコミュニケーション革命から自己変革までをサポートする唯一の道具という見方ができるのではないでしょうか。とにかく、便利で優れもののこの一台と、楽しく、新しい時代を乗り切るための考え方と方法を紹介してみましょう。 |
■□■□ 第1章 ビジネス革命とコミュニケーション ■□■□ |
●理論編 |
1 まず、自分とのコミュニケーション |
この章では、仕事を進めるうえでコミュニケーションと情報管理がいかに重要な要素になっているかを説明しますが、まずその前に、そもそも仕事とはどういうものなのかを考えてみましょう。 みなさんは今、いろいろな仕事を抱えていることでしょう。自分の仕事というのは、当たり前のことですが、自分がやらなければならない仕事ということです。しかし、自分がやらなければならない仕事にも、自分以外の人、つまり他人もかかわっている、という点は見落とされがちです。 例えば管理職なら、部下に仕事の指示をするということもあるでしょうが、これは管理職が自分でやらなければならない仕事です。しかし、そこには部下という他人がかかわってきます。逆に指示された部下のほうでは、自分がやらなければならない仕事に、上司という他人がかかわってくることになります。あるいは営業職の人なら、お客さんという他人がいなければ仕事ができません。さらにチームを組んでプロジェクトを進めるような場合は、他人との共同作業は避けて通ることができません。こうしてみると、どんな仕事でも自分と他人の両方がかかわってくるし、仕事とは自分と他人の2つの要素から成り立っていることがわかります。 仕事の基本的な仕組みが自分と他人とのかかわり方にあるのですから、仕事を進めていくには、他人との情報交換や意見のやりとり、つまりコミュニケーションをうまく行なうというのが重要なポイントになってきます。 しかし、そのコミュニケーションとは、一体どんなものなのでしょうか。紫式部が『源氏物語』の中で「腹にこめがたきを物すなり」、つまり「言いたくて言いたくて、胸のうちにとどめておくことができないので、書いてしまいました」と言っているように、自分の中に他人に伝えたいことがあるときに、はじめてコミュニケーションができるのです。仕事の場面に置き換えれば、上司が部下に仕事を指示するときには、伝えたいこと、何をどうやってもらいたいのかという希望があってはじめてコミュニケーションが成り立つのです。 ところで、部下やお客さんを前にして言葉に詰まったり、話しているうちに何を言っているのかわからなくなり、しどろもどろになったことはありませんか。それは何をどうしたいのかという、自分の伝えたいことが不明だったり、曖昧だったり、うまく整理されていないときに起こるのです。当然、コミュニケーションはうまくいきません。それでは、自分の伝えたいことをきちんと把握するためにはどうしたらいいでしょうか。大切なのは、自分が何を伝えたいかを、自分に問いかけてみることです。つまり、他人とのコミュニケーションの前に、自分とのコミュニケーションを行なうことが必要になるわけです。それによって、今自分が何を望んでいるか、整理することができます。 指示を受ける部下のほうも事情はほぼ同じです。上司がたとえ仕事の内容をきちんと伝えたつもりでも、部下が上司の指示を整理していないと、指示したとおりに仕事が進まないという事態が起こってきます。これには、2つの原因が考えられます。ひとつは、上司が「腹にこめがたきもの」を整理せず伝え、部下が十分にそれを消化できなかっ場合。もうひとつは、上司の「腹にこめがたきもの」を部下が自分の考えで勝手に解釈し、内容を変質させてしまう場合です。前者は送り手の問題で、後者は受け手の問題です。 そして、受け手の問題のケースが発生する主な原因は、受け手自身の自分とのコミュニケーションの欠如にあります。具体的には、上司の指示を今一度自分に問いかけるということが欠如しているわけです。そこで、もし不明な点があるなら、あらためて上司に聞き返すことで、より指示の内容が明確になるはずですし、上司の指示を自分勝手に解釈して、結果的に上司が望むことと自分がやろうとしていることが違ってしまう、などということはなくなるはずです。 仕事には自分と他人とがかかわっているのですから、ビジネスを進めるためには、まずコミュニケーションから始めなければなりません。ということは、ビジネスの成否はコミュニケーションがうまくいくかどうかにかかっているといえるでしょう。私たちはコミュニケーションというと他人とのコミュニケーションを考えてしまいがちですが、他人と上手にコミュニケーションするためには、まず自分とのコミュニケーションを通じて自分自身を知らなければならない、ということを忘れないでください。 特にこれだけ多くの情報が氾濫している時代においては、次々と目の前に現れる情報に振り回されて自分の考えがまとまらなかったり、あるいは自分が考えたことなのか他人から聞いた考えなのか区別できなくなったりするものです。だからこそ、自分とのコミュニケーションによって、自分の意見や考えを整理しておかなければならないのです。まず自分とのコミュニケーションから始める―これが仕事をうまく進めるための基本です。 |