■□■□ 1 仕事の仕組みとマネジメントスペクトル ■□■□ |
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1−1 仕事を7色に − マネジメントスペクトル | |
企業組織が存続、発展するためには、さまざまな活動が必要です。数え上げれば無数にある活動も、大きく2つに分類することができます。1つは、企業、組織の外部、つまり、取引先、顧客、市場といったような外部へ「どう影響力を発揮するか」という活動です。もう1つは企業、組織の内部、つまり、各部、各チーム、各従業員といった内部を「どうまとめ、育成するか」という活動です。 この2つの活動は、互いに大きな影響を与えあっています。外部に影響力を発揮するには、内部がしっかりまとまり、各従業員が高い能力をもつことが要求されます。また、内部をしっかりとまとめ、各従業員の能力を高めるには、資金や経験などが必要であり、それらは外部との関係によりもたらされている。つまり、この2つの課題は、互いに関係しあって成り立っているのです。 この仕組みは、企業、組織だけのものではありません。企業、組織を形づくっている各部署、各チーム、各従業員においても、スケール、レベルの違いこそあれ、同様に内と外の課題が存在しています。この「内と外」の発想は、兵法の「己(内)を知り、敵(外)を知る」思想に通じるもので、仕事を進める各単位である個人、チーム、組織にいたるまで、相似形のように共通に存在する課題です。この発想は、マネジメント全体を考え、とらえるための基礎となります。その相似形のしくみ、原理をとらえることができれば、自動的にマネジメントの仕組みもとらえることができるのです。 それでは、この相似形の原理、仕組みを考えてみましょう。まず、個人から企業、組織までのさまざまな単位において存在する「内と外の課題」をどの単位から考えるかを特定する必要があります。個人で考えるか、チームで考えるか、それとも企業、組織で考えるか。最も単純に、かつ基本で考えるとすれば個人ということになるでしょう。なぜなら、チームや企業、組織は、最小単位である個人が複数に絡み合ったものだからです。チームや企業、組織の「内と外の課題」の原点は、その構成員である個人の「内と外の課題」に求めることができそうです。これは、別の表現をすれば、チームや企業、組織のマネジメントの原点は個人におけるマネジメント、つまりセルフマネジメントに求めることができるということでもあります。 しかし残念ながら、現存するさまざまなセルフマネジメント手法は、単なるハウツウの列挙に終始し、チームや企業、組織のマネジメントにつながるものになっていません。逆に、企業、組織のマネジメント対策であるリストラ、リエンジニアリング、CS、生産性向上対策などの手法は、各個人、チームがいかに自らをマネジメントするかという視点が欠落しているように思います。こうした現状が、セルフマネジメントの手法が組織になかなか定着しなかったり、逆に組織的な取り組みが現場の個々人にまで浸透しない状況の一因になっているのではないでしょうか。 ある単位、レベルにおいてはまさしく効果があるのだが、個人から組織までの全体には通用しない、共有できないようなマネジメント手法の山を私たちは築いてきてしまったようです。本書は、個人から企業、組織までを同時に豊かにするための画期的なマネジメントの考え方とその手法を提案します。 プリズムというおもちゃがあります。このプリズムに光を通すと、7色の光、つまり虹色になります。虹色は、波長の違いによって7色が整然と並んでいます。光は波長の異なるさまざまな電磁波の集合体です。私たちはその集合体を光として認識しています。しかし1度プリズムを通すと、それは虹色となって私たちの前に現れます。そして波長の違いという連続性をもって、光の仕組みを私たちに認識させてくれるのです。 本書では、マネジメントの仕組みをこのプリズムのようにとらえることはできないものか、と考えました。そのためにはまず、プリズムにかける光に相当するものを決めることが重要です。本書のマネジメントの対象は「仕事」です。ここでは光に相当するものを、「仕事」とすることにしました。 次に、光の波長に相当するものを見つけ出す必要があります。それを見つけ出せば、あとはその波長の順序を考えることによって、仕事の仕組み、マネジメントの仕組みをとらえることができます。先ほどの相似形の話を思い出してください。本書では、個人から企業、組織にいたるまでのあらゆるレベルにおいて存在する、「内と外の課題」の相似形の原点を個人に求めました。この個人の視点から波長に相当するものを見つけ出してみます。 まず、個人の視点で「仕事」をとらえ、定義をしてみましょう。定義はこうなります。「仕事とは、自分(内)と他人(外)の共同作業である」。こうして仕事をとらえると、各人が行なうあらゆる仕事は、自分と他人のバランスの上に成り立っていると考えることができます。 自分の影響の割合が多い事柄から、逆に他人の影響の割合が多い事柄まで、それこそ、光の波長のようにさまざまなバランスがあることが推察できます。そこで、光の波長に相当するものを「自分と他人のバランス」とすることにしました。 自分の割合が多く、他人の割合が少ないものから、自分の割合が少なく、他人の割合が多いものまで、仕事を7つの分野(一応スペクトルなので7つ)に、現場でのトレーニング、コンサルティングの経験からまとめてみました。投下時間→動機→優先順位→役割分担→チームワーク→機能→機構の7つです。7つの分野にしたのは便宜的であり、実際は光の場合もそうですが(たまたま7色に見えている)、無数のレベルの連続性が存在しています。 →の方向に進むにつれ、他人、外部の影響が強くなり、→の逆方向に進むにつれ、自分、内部の影響が強くなる。これはプリズムを通して初めて認識できることであり、実際の私たちの仕事ではこの7つの要素は別々に発生するわけではなく、混じりあっています。それゆえ、問題があってもなかなかその本質をとらえることが困難なのです。しかし、このスペクトルの理論を使用すれば、問題の把握が容易になり、さらに望ましい状態を想定することも可能になります。 虹は均等に7つの色が輝いているので美しい。もし7つの色の1部分でも輝きが弱ければ、それは虹とは呼べないかもしれません。私たちの仕事も同様ではないでしょうか。投下時間から機構にいたる7つの分野が均等にマネジメントされて初めて、理想的な仕事と呼べるはずです。 しかし私たちの仕事をスペクトルすると、一般的に自分と他人のバランスは崩れがちであり、他人、外部に重点が置かれていることが多い。マネジメントスペクトルで見れば、投下時間、動機、優先順位は自分に重点を置くべき分野であるが、実務では、チームワーク、機能、機構といった他人に重点を置くべき分野を中心にして仕事が進んでいます。また、これは次章以降で詳しく述べますが、7つの分野はそれぞれ自分と他人のバランスの上に成り立っています。たとえば投下時間は、始め(開始)という自分にしかコントロールできないものと、終わり(期限)という他人が介在するものから構成されます。同様に、動機は質と量、優先順位は目標と実績という具合に、自分でコントロールするものと他人が介在するもので構成されています。実はこの点でも、私たちの仕事は他人中心になりがちで、開始、質、目標より、期限、量、実績に重点を置いて仕事をする傾向が強い。これでは、美しい虹を見ることはできません。7つの分野が均等に輝いている状態ではないのです。 今、私たちのビジネスに最も求められているのは、このスペクトルが美しい虹をつくれるように修正を加えることではないかと思います。これこそ、個人も組織も活性化し、ともに幸福になるためのマネジメントの基本的な考え方なのです。 この7つの分野は、マネジメントの規模(スケール)でとらえることもできます。投下時間、動機、優先順位の3分野は、おもに個人のマネジメント(セルフマネジメント)にかかわる分野です。役割分担、チームワークの2分野は、おもに、グループのマネジメント(チームマネジメント)にかかわる分野です。機能、機構のおもに企業、組織のマネジメント(ストラクチャーマネジメント)にかかわる分野です。つまり、仕事において美しい虹色を作るには、各従業員はセルフマネジメントの分野に、各グループはチームマネジメントの分野に、そして企業、組織はストラクチャーマネジメントの分野にそれぞれ重点的に取り組む必要性があることを示しています。 ホワイトカラーの生産性向上対策に、個人も企業も努力する必要があるとよくいわれます。 しかし何を努力したらよいのかは判然としません。マネジメントスペクトルで考えれば、個人、企業だけでなく、その中間に位置するグループまで含め、重点的に取り組むべき課題が明白になります。また、7つの分野を均等にマネジメントする意味でも、個人、グループ、企業、組織の取り組みは同時に行なう必要性があることも理解できます。 この7つのスペクトルは、右側に移行するほど、より包括的な内容となっています。右側にあるスペクトルは、それより左側にあるスペクトルの内容を含んでいると考えてよいでしょう。この点で見ると、マネジメントスペクトルの基本は投下時間にある、ということができます。 投下時間に対するマネジメントが弱ければ、それより右側にあるスペクトルの分野も効果的にマネジメントできない状況が発生してくることを意味しています。マネジメントの美しい虹をつくるためには、各従業員の投下時間のマネジメントから出発すべきである、といえます。 もう1点、マネジメントスペクトルにおいて留意しなければならない点があります。それはコミュニケーションです。マネジメントスペクトルの基本は、自分と他人のバランスにあります。このバランスをとる具体的手法としてコミュニケーションが存在します。このコミュニケーションの巧拙は、バランスの良し悪しに直結する問題です。 ビジネスの現場において、コミュニケーションの能力がきわめて重要であることは誰しも認めるところです。マネジメントスペクトルの考え方を理解すれば、なぜコミュニケーションが大切かだけでなく、そのコミュニケーションのポイントも明白になります。7つの分野にそれぞれ存在する、自分にかかわるもの―開始、質、目標等と、他人にかかわるもの―期限、量、実績等がビジネスコミュケーションのポイントといえます。 このマネジメントスペクトルの考え方は、各従業員の生産性はもとより、チーム、組織の生産性の現状把握や目指すべき方向性を決定するのに大変有効です。そればかりでなく、LAN対応ソフトの開発など、コミュニケーションのあり方までカバーする考え方ということができます。 本書では実践編として、7つのスペクトルの中でもとくに重要で、かつ、現状では各個人に任されている、セルフマネジメントの分野について、詳細にその具体論を説明することにします。 |