第1章 誰もが仕事の「困った!」を抱えている 【「お助け屋本舗」始動編】 |
1 ビジネスマンにもトレーナーは必要だ! |
◎「お助け屋本舗」設立! 2002年秋、都内中央線沿線某所。 「いやあ、とうとう秋だねぇ」 「そういえば、さっき都庁からの封書が届いてましたよ」 「どれどれ。お!やっと認証されたよ。NPO。時間がかかったけど、これでめでたく活動開始だね」 「それにしても、結構かかりましたね」 「名前でつまづいて二ヶ月、定款でつまづいて一ヶ月、受理されて認証まで三ヶ月、準備から考えると一年がかりだ。皆さん、お疲れ様でした。さっそく理事の方々に連絡して、『NPO法人お助け屋本舗』活動開始!!」 「はーい!これからメールします」 ◎悩みの根は1つ こうして、NPO法人お助け屋本舗は活動開始となった訳だが、そもそもこのNPO法人の設立は、ひょんなことがきっかけだった。 ホワイトカラーの生産性向上が主な仕事であるこのNPO法人の副理事長天野が顧問先の経営者から「ウチの社員の現場での悩みをヒアリングしてくれませんか?」の一言が、そのきっかけであった。 スタッフを招集して、知人の大学教授に心理学のおさらいとカウンセリングの基本をレクチャーしていただき、各メンバーがヒアリング活動を開始した矢先に、別の企業からも、同様のオファーが入って来たのだった。 新しいオファーが入った時、コンサルタントの天野は、 「またか!?」 とつぶやいていた。 天野はコンサルタントとして独立をして、15年になるが、今までに同様の事態に何度か遭遇していた。 ある企業からオファーが来ると、別段キャンペーン等の営業をしている訳でもないのに、別の企業から同様のオファーが来るという現象である。 どうも世の中は、各人各社全く別の人生、会社運営をしているが、一歩掘り下げて、中身を吟味すると、似たような問題、課題をかかえていると天野は経験から感じていた。目に見える現象は別物にもかかわらず、その中身は酷似している。この事実があるから、天野のコンサルタントとしての仕事も成り立つことができるといえる。 それは、目に見える物体、例えば、テーブルやらイスやらキャビネットは、すべて別物であるが、目に見えない分子のレベルで考えると、共通するものが出てくるのに似ていると天野は直感していた。 だから、全く違う業種、業態の会社から、時を同じくして、同様のオファーが来るのだと、ある程度飛躍した考えを天野は持っていた。また、天野自身、目に見えない「仕事のしくみ」については、独自の理論を持ち合わせていたので、いかなる企業からオファーが来ようと、ことホワイトカラーの生産性については、万事対応できると自信も持っていた。 ◎社内の空気が悪い しかし、今回のオファーは、「社員の悩み」のヒアリングである。それこそ、何が飛び出すか、その場になってみなければわからない。悩みの解決策を求められている訳ではないので、多少気分的には楽だが、いずれにしても得意分野ではないことだけは確かであった。最初の会社では、スタッフによりヒアリングは始められていたが、天野はたて続けの二社のオファーに気になることがあり、両社の社長に改めて今回の取り組みの主旨を聞いてみることにした。すると不思議なことに、両社長とも同じような返答だった。 それは、 「最近、ウチの社員の元気がないんですよ。景気のせいでしょうがないと最初は思ってたんですが、その内引きこもりやうつの社員が出てきて、社内の空気が暗くて、暗くて、これでは、いかんと思い、一人一人と面談しようと思い立って、数名とやってはみたものの、社内の上下関係の中でやると、人事考課の一環みたいなことと思われて、なかなか本音も聞けないしで弱ってたんですよ。それで、天野さんが顧問でせっかく、いらっしゃるんだから、外部の第三者にお願いしようと思ったわけです。できれば、一人一人の悩みのヒアリングと、その解決策までアドバイスしていただければ、ホント助かります」 というような内容だった。 ◎ビジネス現場は崩壊状態!? 天野は、ある雑誌の記事で、潜在的な傾向まで含めると日本人の30%は「うつ」であるというのを見ていたが、今回の同時の2つのオファーのことを考えると、どうも、今の日本は、かなり深刻な状況になっているのではないかと感じていた。政治家は「痛みの伴う改革!!」と声高に言うが、経済の最前線である個々の現場は、崩壊状態に近いのかもしれないと思った。 政治家は、セーフティネットだのと痛みをこらえる為の方策をいうが、さしたる効果が出ているとは思えない。そこで、今回のヒアリング作業にたずさわっているメンバーやアドバイスをくださる大学教授等に声をかけて、非政府組織つまり民間としてのNPOの設立を持ちかけてみることにしたのだった。 ◎現場の悩みとは何か? 集まったメンバーには、その時ヒアリング作業に従事しているものもいた。 「天野さん、今回のヒアリングをしてみて、金儲けになるかどうかは別問題として、ビジネスマン、働く人の悩み相談を受ける組織は絶対必要ですよ」 「ほう、それはどうして?」 「今まで、企業調査でのヒアリングは、ずい分一緒にやらせてもらいましたよね。でも、今回のような、悩みは何?みたいなヒアリングは初めてですけど、ホントみんないろいろな悩みや問題をかかえてるなぁと思う訳ですよ。自分を含めてね。だけど、そのほとんどは、各自の胸の中にしまわれていて、心の中でバトルをやってるって感じですよ。いつバトルに負けてもおかしくない状況ですよね。そんな時に、サポーターやら、助人がいたら負けになるところを勝ちにもってくことも、ずい分できるんじゃないかなぁって、つくづく思いました」 「同感。今回のヒアリングの会社、業績悪い訳じゃないですよね。どっちかというと良い方ですよ。それでも、従業員のかかえてる悩みや問題って、結構根が深くてシリアスですよ。これで、会社の業績も悪かったら、もっとひどいことになってるんじゃないかと思いますよ」 「具体的には、どんなのがあったの?」 と天野は、つっこんだ質問をしてみたのだった。 |