本小論集について |
本小論集は、弊社が社名変更する前の1993年の夏から秋にかけて、当時展開していた「'A'Time」の更なる普及を目指して、代表者である行本
明説が執筆したものをベースにしております。 当初「自分の時間と他人の時間」というタイトルのもと、1994年の春頃の出版を目指しておりましたが、不幸なことに、出版間際になり、「'A'Time」の本国である、英国の「'A'Tme Ltd.」が清算され、出版が難しい状況となりました。また、「'A'Time」の開発者であるJames Noon氏と、弊社の代表者である行本 明説との理論上の整合性もつけられず、出版社と協議の上、断念した「まぼろしの処女作」でもあります。 しかし、以前より、弊社のタイムマネジメント・セルフマネジメント、さらにはホワイトカラーの生産性向上に対する根本的な考え方を凝縮した著作でもあり、何とか世に出したいと考えておりました。 この度、弊社も何とか「'A'Tme Ltd.」の清算の余波から抜け出し、新理論でのトレーニング、コンサルティング展開が可能となり始めたのを機に、形とすることと致しました。 形とするにあたり、当時の原稿のままとも考えましたが、本著作を執筆した当時と、現在の弊社の考え方では、4年の歳月の中で、随分と考え方、理論体系に差が生じているため、当時の原稿を極力活かしつつ、現在の弊社の考え方に合うよう、修正させていただきました。 本著作を大幅修正したものが、実は「セルフマネジメント・スキルBOOK」として1994年の暮にTBSブリタニカより出版されております。英国とのトラブルの中で、出版したこともあり、十分な配慮が出来ないまま出版することとなった作品でもあります。その点、本著作は、十分な配慮のもと作り上げられていると確信しております。 本著作のノウハウをビジネスに十分に活用されることを期待しております。 |
(株)マネジメントスペクトル 代表 行本 明説 1997年1月31日 |
0−0 はじめに 「千利休とタイムマネジメント」 |
英国のタイムマネジメント手法である「'A'Time」を日本に導入して、今年で5年目となった。この間、ビジネス社会を舞台に活躍している5000名以上の方々に、タイムマネジメントの考え方とテクニックをお伝えしてきた。 私がタイムマネジメントに興味を持ったのは、タイムマネジメントの考え方が、極めて東洋的であったからに他ならない。父が剣道の私塾を開き、3才の頃から塾生の遊び相手として竹刀を持たされていた私は、いわゆる「道」の世界に、私の意志とは無関係のところで入ることとなった。今にして思えば、それが、私の人生において大きな布石になっていたように思う。「'A'Time」のトレーニングコースを最初に受講した際、英国から来たノウハウにもかかわらず、妙に親近感があり、違和感なく受け入れられたのも、幼い頃から慣れ親しんだ「克巳」とか、「己を知り、敵を知る。」とか、「着眼大局、着手小局」といった東洋の思想が、西洋の理論の中で表現されていたためである。とかく精神論的な処世訓と思われがちな東洋思想が、「'A'Time」の中では見事に理論化され、現実の出来事に、しっかりと結び付けて語られていたのである。 古今東西、肌の色が違い、宗教が異なっても、人間が行うことには、ある種の共通の定めがあることをつくづくと感じる。 今、日英のコンサルタントが共同で着手しているのが、タイムマネジメントを更に拡大した、ライフマネジメント「'A'Life」のセミナー化である。ここにも、しっかりと東洋的発想は生きていて、一言で説明すれば、「着手小局」がタイムマネジメントで、「着眼大局」が、ライフマネジメントということができる。その考え方と日々の具体的方法論を系統立て、誰にでもわかりやすくするのが、我々コンサルタントの勤めと考えている。 最後に、「'A'Time」「'A'Life」の「'A'」について。これは、裏千家の開設者、千利休の言葉で語ることができる。「降らずとも傘の用意」と利休は語り、茶室の設計の中に、水屋という事前の準備をする部屋を設けた。万事、事前の準備が大切という思想を形にしたわけである。「'A'Time」「'A'Life」の「'A'」も、この思想に相通じるものがある。「'A'」は「Ahead」(前もって)の「A」である。 不確定の時代、激動の時代である現在において、一番重要なことは、確定できるものを少しでも増やすこと、世の中が激動しても、不変なものを少しでも確立することだと思う。その一番確実で、誰にでもできることは、「己を知ること」に他ならない。そのためにも、「前もって」の発想は重要だ。「己を見失う時」、我々は、どうも行きあたりばったりで、物事に処するようであるから……。 平成5年10月21日 |
株式会社'A'Timeマネジメント |
注)本稿は1993年の夏から執筆しました。当時、英国の'A'Time社と、米・英のシャープ社との共同プロジェクトや、トレーニングコースの共同開発を取り組んでいました。しかし残念なことに、1994年5月に'A'Time社が突然(私にとっては)清算され、そのため、それらの事業をすべて中断せざるを得なくなりました。 |
0−2 本書の目的 |
ホワイトカラーの生産性向上や、知的生産性の向上が、注目を集めている。書店をのぞけば、知的生産性に関わる出版物、例えばタイムマネジメントや、仕事の進め方、部下育成、チームワークの作り方等に関する本が、100冊を、はるかに超える程である。また、その多くは、ハウツウものである。そこに紹介されているハウツウ、つまり、テクニックの数は、一体どのくらいあるのだろうか。日常業務の中の様々な現象面を取り上げて、問題を列挙し、その対策としてのノウハウを全部紹介したら、多分、百科事典ができてしまうくらいの量だろう。一度時間があったら研究してみたい気もするが、この本の目的は、そんなところにはない。これ1冊で、タイムマネジメントを中心とした、生産性向上に関するすべてのことをカバーしようというところにある。そこで、この目的を達成するために、本書では、現象面の一つ一つを取り上げるのではなく、その現象の奥にある、本質の部分に近づくことを考えた。つまり、生産性向上に関わる普遍的な一つの考え方、理論をつくりあげることを目指したわけである。その結果、本書では、普段見落としがちな「当たり前のこと」にこだわることとなった。なぜなら、普遍的なものというのは、常に簡単明瞭で、言ってしまえば、ごく当たり前のことだからである。 ところで、皆さんの中には、どうしてタイムマネジメントが生産性向上に結び付くのか、疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれない。かく言う私も、自分の仕事を説明するのに、四苦八苦することがしばしばある。「お仕事は何ですか。」と聞かれて、タイムマネジメントを基本とした、生産性向上に関わるセミナーや、コンサルティングを行っています。」と答えたところで、わかって下さいと言うほうが無理なのかもしれない。そこで、これをごく簡単な言葉で言い替えれば、「いかに仕事をうまく進めるかの、お手伝いをしています。」ということになる。 「いかに仕事をうまく進めるか。」 つまり、これが、この本のテーマであり、その答えが、すべての仕事に通じる普遍的な考え方として、この本の中で語られることとなる。何百、何千ものテクニックを一つ一つ覚えることなど、普通の人間には不可能だし、それほど意味のあることとは思えない。私達がすべきことは、ただ、この本の中で語られている、ほんのわずかの根本的な考え方を、しっかりと意識の中に植え付けることだけである。そうすることによって、私達は、仕事でどんな困難な場面にぶつかっても、常に同じ基準で、正しい解決策を見いだすことができるようになるのである。そして、その考え方の鍵が、本書のタイトル「自分の時間と他人の時間」という言葉の中に隠されているのである。 本書を読み終わる頃には、「自分の時間と他人の時間」というタイトルに込められた意味の重要さを、皆様に充分に理解していただけることと信じている。 |