2.ホワイトカラーの生産性向上を考える

 本論ではホワイトカラーの生産性向上を考えるにあたって、概念化作業をそれに伴う新たな経営指標を提案する。

2−1.なぜホワイトカラーの生産性向上は難しいのか
 ホワイトカラーの生産性向上対策や間接部門の効率化の取り組みが難しいといわれ、具体的な成果が出せないでいる。この理由は、生産性向上のための指標(数的データ)がないからである。生産現場(工場)での生産性向上の取り組みが具体的な成果をあげているのは、IEをはじめとする各種手法により、確固たる生産性向上の指標があるからである。この差はどこから生じるか?その原因の究明が、ホワイトカラーの生産性向上対策の第一歩といえる。指標の有無の差は、仕事の仕組み(マネジメントモデル)の捉え方にあると本論では考える。
 つまり、生産現場では確固たる生産モデルが存在しているので指標を捉えるのも容易であるが、ホワイトカラーや間接部門の仕事には、このモデルがないがために指標すら想定できず、効果的な具体策につなげられない。
 本論では、このホワイトカラーの仕事のマネジメントモデルを提案する。


2−2.生産性向上とは
 次に、ホワイトカラーの生産性向上とは、いかなるものかを明確にしなければ、対策の方向性も定めることはできない。ホワイトカラーの生産性向上は三つの方向性に分類できると本論では考える。ひとつは「従来より少ない時間」で同一業務を遂行すること。もうひとつは「従来より多くの工数(処理項目数)」を単位時間あたり実現すること。最後は「従来より高い処理内容」を単位時間あたり実現することである。つまりホワイトカラーの生産性向上とは「より少ない時間で、より多く、より質の高い仕事をすること」である。そこで本論では、ホワイトカラーの生産性向上を以下の式で捉えることとする。

 生産性=(仕事の量×仕事の質)÷投下時間

 これをホワイトカラーの生産性方程式と呼ぶこととする。
 21世紀はタイムベース競争とかスピード化の時代になるといわれている。スピード化とは、同一成果をあげるのに、従来より投下時間を少なくすることである。これが生産性の向上となる。
 また、アメリカでのITによる経営革新は、単に情報技術を導入しただけのものではなく、投下時間の短縮と、仕事の平準化(誰が行なっても、ある程度の量と質が確保できる)を実現するために行なわれている。しかし、日本でのIT導入は、表面的なアメリカの真似であり、IT導入の前にあるべき経営戦略は不透明である。
 しかし、日本マクドナルドでは、多店舗展開の経営戦略により、従来6ヶ月以上を要していた出店作業を、業務のモデル化とITで3分の1以下の時間に短縮し、成果を上げている例もある。
 更にこの数式からいえることは、投下時間が一定であれば、21世紀の生き残り戦略は、同業者より、より多くの仕事の量をこなすか、より精度(質)の高い仕事(高付加価値)をこなすかのどちらかである。


2−3.組織の経営資源としての「時間」
 この21世紀への生き残り戦略の基本は仕事の量を増やし、質を上げて生産性をあげるため、従前以下の時間で行わなければならないということである。この表現は従前の経営学的見地からすると「同一の従業員数か、または、それ以下の従業員数で実現するのが条件」となる。そこをあえて「時間」と表現したのは、生産性の方程式と、生産性向上指標という視点からによる。
 なぜ従業員数という表現ではいけないかというと、その発想の根底には、従業員数→人件費→バランスシートという構造が存在するからである。バランスシートは指標のひとつではあるが、この指標はホワイトカラーの生産性向上には、全く寄与しない指標である。従前の指標とは異なる新しい指標が、ホワイトカラーの生産性向上には求められている。 本論では投下時間を新しい指標のひとつと考えている。一般的には、

 企業の総投下時間=Σ従業員の投下時間

 となり、従業員数は重要なファクターである。ここに、投下時間という概念を加えると、その対策に大きな差が出てくる。ちなみにリストラ=従業員の削減(人件費の削減)=首切りという構図は不幸にも定着し、リストラ=投下時間の削減=業務改善(含む人員削減)という構図は、残念ながらマイノリティーである。このように概念は、経営戦略に大きな影響を与えている。
 投下時間の削減という視点を持たないかぎり、生産性向上の取り組みの意欲も、方策も生じえない。
 つまり、本論では投下時間を経営上の重要な資源として位置づけ、企業の総投下時間=Σ従業員の投下時間として把握し、各従業員の投下時間=仕事のすすめ方(タイムマネジメント)による削減(効率化)を推論の拠り処としている。