東京にある、従業員400人という中堅どころの中小企業、株式会社「武蔵野」は、この不況下にあっても、次々と大きな成果を挙げている企業です。実はこの武蔵野、半期に一度、社長自ら会社の目標を直接、全社員に向けて発表しています。また、社長は自らの手で目標を策定するため、半月もの間、山籠りをするというほど、これは武蔵野にとって大事な行事となっています。
これまでこの副読本で、ビジネスにおけるコミュニケーションの重要さを何度も説いてきました。実は、ビジネス・コミュニケーションの出発点となるのが、この目標なのです。部長からメンバーへの意志伝達も、メンバー同士の打ち合わせも、得意先との商談も、ビジネスにおけるすべてのコミュニケーションの成否が、会社の目標が明確になっているかどうかに左右される。逆に、目標が明確になっていなければ、有効なコミュニケーションは成立しないのです。何を成すべきかが明確でなければ、何を伝えるかが明確にできないのも、いわば当然のことです。
これは、全社的なレベルだけではなく、部や課のレベル、あるいは個人レベルでも同様です。部としての目標、個人としての目標が明確に意識できていなければ、有効なコミュニケーションは成立しません。例えば、部としての営業目標が前月比1割増であり、それを達成するために自分に割り当てられた、新規顧客の開拓3件という目標が把握できていない営業マンが、訪問先で有効なセールストークができるはずがなく、上司や同僚から有効なアドバイスが得られるはずがない。 社内コミュニケーションの円滑化――多くの企業がパソコンや携帯端末などのツールや、情報伝達のフラット化などの制度を導入して実現しようとしながら、満足できる結果を得られないのは、ビジネス・コミュニケーションの出発点を理解していないからなのです。
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