2-2.ビジネスコミュニケーションの出発点は目標設定
   ポイント
     ・ 目標がはっきりしないとコミュニケーションの効果は半減する

     ・ 目標策定は重要なコミュニケーション業務
1.目標は、ビジネスコミュニケーションの出発点。
2.金庫の目標は理事、支店の目標は支店長がつくる。
3.支店経営の出発点は、支店目標の策定。
自分が納得しないと、人を説得できない
納得しない職員がいると、力がまとまらない
目標ができたら、納得のための調整・説得は、最優先課題
  チャート図09


              


              
            
  関連セクション
<目標はコミュニケーション?>

 
 東京にある、従業員400人という中堅どころの中小企業、株式会社「武蔵野」は、この不況下にあっても、次々と大きな成果を挙げている企業です。実はこの武蔵野、半期に一度、社長自ら会社の目標を直接、全社員に向けて発表しています。また、社長は自らの手で目標を策定するため、半月もの間、山籠りをするというほど、これは武蔵野にとって大事な行事となっています。
 これまでこの副読本で、ビジネスにおけるコミュニケーションの重要さを何度も説いてきました。実は、ビジネス・コミュニケーションの出発点となるのが、この目標なのです。部長からメンバーへの意志伝達も、メンバー同士の打ち合わせも、得意先との商談も、ビジネスにおけるすべてのコミュニケーションの成否が、会社の目標が明確になっているかどうかに左右される。逆に、目標が明確になっていなければ、有効なコミュニケーションは成立しないのです。何を成すべきかが明確でなければ、何を伝えるかが明確にできないのも、いわば当然のことです。
 これは、全社的なレベルだけではなく、部や課のレベル、あるいは個人レベルでも同様です。部としての目標、個人としての目標が明確に意識できていなければ、有効なコミュニケーションは成立しません。例えば、部としての営業目標が前月比1割増であり、それを達成するために自分に割り当てられた、新規顧客の開拓3件という目標が把握できていない営業マンが、訪問先で有効なセールストークができるはずがなく、上司や同僚から有効なアドバイスが得られるはずがない。 社内コミュニケーションの円滑化――多くの企業がパソコンや携帯端末などのツールや、情報伝達のフラット化などの制度を導入して実現しようとしながら、満足できる結果を得られないのは、ビジネス・コミュニケーションの出発点を理解していないからなのです。
 

<今を変える目標設定法>

 
 思いを数値化(具体化)するのが、目標の設定です。では、どうやって具体化すればいいのか? この節と次節で、2つの手法を紹介しましょう。
 まずひとつめが、改善型の目標設定法です。これは、昨日の自分よりも今日の自分、今日の自分よりも明日の自分と、少しでもランクアップし続けようという発想の手法です。まず、今の自分をしっかりと見つめ、長所と短所を把握するところから始めます。長所を少しでも伸していく。短所をひとつずつでも解消していく。そのための目標設定というわけです。
 手始めとして、マニュアルで紹介したワークスタイルのシートを利用するのも良いでしょう。これは、今の自分をしっかりと把握し、長所と短所を認識するためのものでもあります。タイプA、タイプBのいずれも、それぞれに特徴的な長所と短所を列挙してあります。それをひとつずつ、目標として設定する。あるいは、タイプA、タイプBとも、どちらが良い、悪いというものではないが、いずれかにあまりにも片寄ったスタイルは、やはり問題です。ですから、例えばウルトラAという人は、ひとつでもタイプBの特徴を身に付けるように目標設定するのも、効果的です。
 また、長所を伸すのか、短所を改善するのか、いずれを優先すべきか? それは、皆さんの仕事の調子によって判断すべきでしょう。仕事がうまくいっている時は、えてして慢心が生まれ、思わぬチョンボをしてしまうことがあるものです。それを防ぐためにも、短所の改善を目標として方がいい。逆に、仕事がうまくいかない時には、ついつい短所に目がいきがちです。しかし、落ち込んでいるときこそ、自分の長所に目を向け、自分の良さを伸すことを心掛けるべきでしょう。今の自分よりもワンランクアップ――これが改善型の目標設定です。

<夢を実現する目標設定>

 
 もうひとつの手法は、変革型の目標設定法です。改善型が、今の自分を把握することが出発点であったのに対し、こちらは自分の将来の姿が出発点となります。まず、大金持ちになりたいとか、部長になりたい、日本一のセールスマンになりたいなど、自分が将来、こうありたいという姿を想定します。
 次いで、それを実現するには何が必要かを考える。いわば実行分野を設定するのです。日本一のセールスマンを目指すのなら、営業トークを身に付ける、商品理解力を深めるなど、少なくとも2つ、多くとも8つの分野をきめる。次のステップでは、選択した実行分野の目標を設定する。身に付けるべきセールストークの実行目標として、どんな客でも説得できるセールストークという目標を設定します。
 そこからさらにブレークダウンをくり返し、具体的な行動計画を、段階を経ながらたてていきます。まずは自分が苦手とする押しの強いトークを身に付ける、そのために部長のトークを真似る、さらに自分のチームのトップセールスマンのトークを自分のものにするというように、目標を設定しながら、現在の自分に近付けていく。
 また、得意先の担当者の中で、いつもうまくトークできるタイプを相手に、さらに上手にトークするには何が必要かを見極め、その手法を身につけることを目標とする。あるいは、苦手なタイプを相手にするのに必要なものを、次の目標とする。
 こうして、徐々にブレイクダウンして、今の自分に近付けていく。一見すれば、夢物語のような将来像が、今の自分の姿と、確実に目に見える線として繋がっている。それが実感できるのが、この変革型の目標設定方なのです。
 

<具体的でないと誰も動けない>

 
 いくら立派な言葉で目標を掲げても、実現できずに、絵に書いたモチで終わっては、意味がない。実現するのに最も重要なことは、その目標がリアルで、具体的だということです。仕事は、自分と他人との共同作業です。自分ひとりだけではなく、他人にも動いてもらわなければならない。その際、目標が具体的であれば、仕事相手も動きやすい。抽象的な美辞麗句では、誰も動いてはくれません。相手を動かす、あるいは動いてもらうには、コミュニケーションが大切な手段であることは、すでに説明しましたが、そのコミュニケーションの基本が、目標なのです。
 では、具体的な目標を立てるには、どうしたらいいのか? それは、生産性の方程式の3要素、投下時間と質、量を明確にすることで可能となります。仕事の期限がはっきりしていないと、行動計画が立てられない。同様に、どのくらいのレベルの仕事を、どのくらい多くやるのかがわからなければ、行動しようがない。あるいは、「とにかくやってみようじゃないか」と、行動を起すことはできたとしても、その結果を評価することは不可能です。 
 目標による管理を導入している企業が昨今、増えていますが、私のコンサルティングの経験から言わせてもらえれば、せっかくの試みもうまく機能していないケースが意外と多い。それというのも、生産性の方程式の3要素という、目標づくりの基本を見落としているからなのです。
 投下時間と質、量は、自分だけではなく、他人を動かす、あるいは他人に動いてもらうための、基本の要素であり、これを目標に取り込むことで、目標を具体化し、その目標を基に行動計画をたてる。この一連の作業は、皆さんの仕事の成果、生産性を左右する、いわば大仕事なのです。